ふうっ、ようやく全8冊を読み終えた。
ほぼ通勤の時だけ読んでいて、半年以上もかかってしまった。
世界から取り残され、世界的に見れば特異な江戸泰平の時代が終わり、たった30年あまりで大国ロシアに立ち向かう日本。兵士には人権もなく、まるで働き蟻のようにひたむきに前進し、いとも簡単に死んでいく。
ほんの100年前の世界には、まるで理解できない姿が広がっている。
しかしながら、無残な戦争の描写も、どこか清々しく描かれているようで、何とも不思議な感覚だ。
きっと、これはタイトルの印象かな、と今にして思う。
「坂の上の雲」。僕はこの透明感のあるタイトルがとても好きだ。
日露戦争を勝利したことが、「錯覚」となりのちの第二次世界大戦の失敗を生んだと言われているが、一方で近代日本の「組織力」はこの戦争で強く養われたんだろう。
目上の上長を尊ぶ姿、組織と統制があってはじめて一人一人の兵士が戦力となる。
戦う前に勝負は決まっている、という戦略の重要性。
どの点でもロシアよりも抜群に勝っていたようだ。
印象に残ったシーンはいくつかあるが、一番印象が強いのが、旅順の戦い。
旅順の戦いにおいてステッセルが降伏した途端、日本とロシア両国の兵士が抱いて喜び合った。
まさに戦争とは国と国との争いであって、人間と人間の争いではないのだろう。
少なくともこの本が描く日露戦争はそうであった。
陸の大山巌、海の東郷平八郎。
組織の長は、どんなに厳しい環境でも、図太く、一喜一憂せず、貫いた道をただ邁進するのみだ。