山本素石著「山釣り」

合言葉がそうであるように、山といえば川だ。山と川は常にセット。

山における川はすなわち谷であり、あまり陽の当らない薄暗い場所ということになる。下流域の川はもちろん平地になるので明るい場所だけれど、「渓流釣り」の短編集となると、その対象魚は標高の高い場所にしか棲んでいないから、自動的にその短編集の舞台は山間だから、何とも薄気味の悪い雰囲気になりがち。

作者はそのつもりはないのかもしれないが、読んでいる自分が頭の中で思い描く風景は、とても薄気味悪い。

それぞれの短編の舞台となった場所をひとつひとつ地図で見ると、よくもこんな山深いところまで歩いていくよなー、という場所ばかり。

文章を読みながら、地図を開きながら、ゆっくりと自分の中で空想する風景を味わう。至福の時間。